第5回アジア・グローバルヘルスサミット&第16回香港国際メディカル&ヘルスケア・フェア/香港現地取材レポート

 第5回アジア・グローバルヘルスサミット(ASGH)は5月26~27日、香港特別行政区政府及び香港発展貿易局の共催で、香港コンベンション&エキシビションセンターの5階にて行われた。同サミットには、前回を上回る世界42の国と地域から、2900人を超える参加者が集結。今回のテーマは「共に創る未来:グローバル協力の促進」で、今後のヘルスケア業界の将来の方向性と協力体制についての数々の討議や交流がなされた。
 26日に行われたオープニングセッションでは、最初に香港貿易発展局主席の林 建岳氏が開会の辞を述べ、続いて中華人民共和国香港特別行政区行政長官の李 家超氏が登壇。香港における国家的プロジェクトの最新話題について、このように語った。
「先週、香港でグレーターベイエリア国際臨床試験センターが開設され、香港の2つの医学部との臨床研究がスタートした。来年は70以上の臨床試験プロジェクトを推進し、粤港澳大湾区内の機関と連携して、国境を越えた試験が始まる予定だ。そして政府は、深圳市と協力し、年末までに『実世界研究応用センター』を設立することで、医療データの共有を促進。ともに新薬承認を迅速化しようとしている」
 また同氏は、香港医療の世界・アジアにおける立ち位置について、「香港は生命と健康分野の国家重点実験室を8つ有する都市だ。世界レベルの科学研究及び医療技術の革新にとって、“肥沃な土壌”を提供していると考える」と述べた。
 次に曹 雪濤氏(中華人民共和国国家衛生健康委員会事務次官)が、中国本土の医療動向と今後の期待について「中国は引き続き市場を開放し、投資や合弁事業を通じて大手外資病院を迎え入れている。グローバルパートナーが、ミッドエンドからハイエンドの製品をさらにローカライズしてアップグレードし、全ての人々にウインウインの結果をもたらすことを願っている」と説明。最後に、世界保健機関(WHO)事務局長のテドロス・アダノム・ゲブレイエスス氏がビデオレターの形で、ASGHを「現時点で世界の健康が直面している課題を考えると、今回のテーマはこれ以上ないほど適切である」と評価。さらに「WHOのパンデミック協定が裁可採択されたが、それは過去3年半にわたって交渉され、グローバルヘルスのための国際協力の真の精神を示している。各国の協力により、全ての人にとってより健康で、より安全で、より公正な世界を築くことができる」と強調した。
 初日午前の部で行われた全体会議Ⅱ「共通の未来に向けたグローバルな協力の推進」には、上野裕明氏(田辺三菱製薬代表取締役)と原 丈人氏(アライアンス・フォーラム財団取締役会長)が登壇。議長にビクター・L・L・チュー氏(ファースト・イースタン・インベストメント・グループ会長兼CEO)を迎え、プレム・クマール・ナイール氏(IHHヘルスケアバーハッド・グループCEO)とウン・シュー・チェン氏(香港中文大学医学部医学科学科教授)が参加し、グローバルヘルス分野において今後、どのような協力を促進して深化させるかについて討議した。
 上野氏は自社の歴史と概要を述べた後、現在のグローバル活動について説明。「我が社の現在の事業規模は、日本が3分の2を占め、2番目は米国で20%、3番目はアジア地域の5%となっている。5%は決して大きくはないが、我々は最近、アジアで急速に事業を拡大している。そのため、私はアジアの将来の可能性に大いに期待している」と語り、「一方で、医薬品を世界中に届け、薬物治療、生活習慣病、神経疾患など幅広い分野をカバーしていきたい」と将来への抱負を語った。
 また、チュー氏からの「先日のファイザーと3Sバイオとの12億ドルの大型契約のような動きが、特に日本の大手製薬会社で増えると思うか」との問いに対し、上野氏は次のように私見を述べた。
「製薬ビジネスでは会社の規模は大きな問題ではなく、新しいイノベーションや革新的な薬はベンチャー企業でも発見できる。しかし、革新的な薬をグローバル視座で開発し、臨床試験やマーケティングを行うには多大なコストを要するため、大手製薬会社が必要になる。要は、新薬発見の観点からは、大手企業だけでなくベンチャー企業も必要であり、将来の製薬ビジネスにおいては、規模を問わず各社が発見・開発・製造・グローバルマーケティングで各々の役割を果たすことにより、役割分担の形で生き残れると考える」
 原氏はまず、香港におけるグローバルヘルス活動のあり方について「香港には明るい未来があり、それは必要な要素だ。しかし成功させるためには、従来のベンチャーキャピタルとは異なるベンチャーキャピタルファンドが必要になる。従来のベンチャーキャピタルは利益を目的としているが、これからは新しい産業を創出し雇用を生み出す使命を持つファンドが必要である」と語った。次に、今後の創薬に関して「現在のFDAや日本のPMDAの規制は小分子薬に基づいており、再生医療や免疫薬などについては新しい薬承認システムが必要だ」と私見を述べ、「そのシステムをアジアで創造すべきで、RCEP(経済産業省の地域的な包括的経済連携)で提案するのも良いかもしれない」と提案した。
 質疑応答においては、「グローバルな協力と深化、拡大に関して、異なる文化や政府間で信頼と尊敬を得るための最良の戦略は何か」というチュー氏の質問に対し、原氏は「我々はアフリカ19ヵ国で栄養プロジェクトに取り組んだ際、誰もが願う共通の目標と達成のための熱意を示すことができれば、伝統や歴史、文化などの違いを克服できると考えた。この場合は『何人の命を救えるか』だったが、それを議論し特定することが最初のステップだ。2つ目は人々に理解されることで、利益は良い行動の結果であり、目 的ではないことを広く理解してもらうことが重要だ」と結んだ。
 なお、日本人の演者は他に、27日に行われた「データ駆動型ヘルスケア:患者体験の変革」に野口 亮氏(JMDC代表取締役社長)が参加した。
 また、第16回香港国際メディカル&ヘルスケア・フェアは5月26日から28日まで、香港コンベンション&エキシビションセンター3階にて、香港貿易発展局の主催により開催された。
 今回のテーマは「スマート医療健康新体験」。57の国と地域から約1万3000人が来場し、出展者は300以上に到達した。なお、シンガポール、ドイツ、イタリア、ルクセンブルクは初の参加となり、その他、イスラエル、タイ、英国などからの参加があった。また、同フェアは香港のヘルスケア投資のハブとしての役割も担っているが、今回は390件以上の個別商談会、及び660件以上のビジネスマッチングミーティングが行われた。
 展示会場には、「バイオテクノロジー」「病院設備」「リハビリ・高齢者ケア」「ヘルス&ウェルネス」などのエリアが設けられ、「最先端医療技術」「高齢者向けテクノロジー」「グリーンソリューション」を重点分野として開催された。とりわけグリーンソリューションは、AIを活用したイノベーションにフォーカスしており、生成AIを含む同技術への関心の高さがうかがい知れた。


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